東京スカイツリーは、2012年竣工の高さ634mの電波塔であり観光施設です。東京スカイツリーができるまで、日本で最も高い建造物は東京タワーでした。東京タワーの高さは約333m。東京スカイツリーはその倍の高さを実現しているのです。その完成には約4年の設計期間と3年8か月の建設期間を費やしたと言われています。 縦に細長いタワーは、東京タワーのように末広がりの形状の方が通常、安定性を確保できます。しかし、東京スカイツリーの建設地は細長い地形の貨物列車駅跡地でした。そのため、円や四角形で足元の基礎部分を作るとなると一辺の長さが十分に取れません。そこで考え出したのが基礎部分を正三角形にすることでした。建物は高さが高い程、地震や強風などによる揺れの際に基礎部分に大きな力がかかります。
そこで、東京スカイツリーは基礎の杭を節付きの壁杭にして摩擦抵抗を大きくすることで、揺れに抵抗しています。さらに壁杭を放射状に地中に張り巡らせ、木の根っこのように大地の地盤と一体化させる仕組みにしているのです。 東京スカイツリーは鉄骨造ですが、部材に一般的な鉄骨の2倍の強度を誇る高強度鋼管が使用されており、基礎部分の鋼管は直径2.3m、厚さ10cmにも及びます。前述のように、タワーの断面は地上の真上では正三角形です。しかし、上階の展望台では全方位が見渡せるように円形にする必要がありました。そのため、足元の正三角形が上に上がるにつれて丸みのある三角形へと変化し、高さ320m地点で円となる世界的にも例のないユニークな形状が誕生したのです。しかし、このような特徴的なタワーが完成するまでの道のりは簡単なのもではありませんでした。塔体は複雑な曲面を描きながら上へと伸びていくことになります。実現には、従来のそれを大きく超えた建築技術が求められ、設計の段階では40個に及ぶ模型が作成されました。このうち、最も構造的に無理が少なく、かつ強度の高い形状の模型が採用されました。この形状は、日本刀の「そり」と奈良時代に建築された法隆寺や平安時代に建築された寺院の円柱にみられる「むくり」など日本の伝統建築の技術が駆使されています。この「そり」と「むくり」の融合されたデザインにより、東京スカイツリーは見る方向によって傾いていたり、裾の部分が非対称にも見えるようになっています。 また、東京スカイツリーは、外周部の鉄骨造の塔体と中央部の鉄筋コンクリート造の心柱と呼ばれる円筒の2種類の構造体から成っています。塔体と心柱は地上125mまでの可動域ではオイルダンパーによって接続されていますが、構造的には分離されており、地震や強風による揺れの際に中央部の心柱部分が「おもり」として機能するようになっています。具体的には、「おもり」となる心柱が構造物本体とタイミングをずらして揺れることで、揺れを相殺させ、建物全体の揺れが抑制される新しい制振システムが実現されているのです。東京スカイツリーでは心柱となる円筒部分の内部は階段室となっています。一般的に、建築物の「おもり」にはコンクリートや鋼の塊が使用され、心柱を建物の「おもり」として活用するのは世界でも初めての試みです。 この塔の内部に独立した柱を設ける心柱の構造は、実は日本古来の建築物である五重塔に用いられています。五重塔は、法隆寺をはじめ、日光東照宮や醍醐寺にありますが、木造建築物にも関わらず、今までに地震による倒壊の記録がありません。そして、その理由には塔体から構造的に独立した心柱の存在があると推測されています。ただし、東京スカイツリーの制振構造は五重塔を模倣した訳ではなく、634mの高さのタワーの建設に現代の技術を応用した結果、類似した構造になったというのが事実のようです。しかし、だからこそ古代の人の知恵と五重塔の構造は素晴らしく、それらに敬意を表して東京スカイツリーの設計を行った日建設計は、この制振構造を「心柱制振システム」と名付けたと言われています。 また、東京スカイツリーは、色彩にも日本の伝統色が配されています。「スカイツリーホワイト」として知られるそのカラーは、藍染の最も薄い色である藍白(青みがかった白)をベースにしたオリジナルカラーです。ライティングデザインは、江戸で育まれてきた心意気の「粋」と隅田川をイメージしたブルー、そして日本の美意識を表す「雅」の紫の2種類が一日毎に交代で灯されます。さらに、地球環境に配慮するという観点から全ての照明をLEDで揃え、省エネにも貢献しています。 近年、都心では再開発が活発に行われ、複合施設や大規模賃貸事務所の建設も盛んに進められています。2011年に発生した東日本大震災以降、建物の建築には地震対策が今まで以上に重要視されてきました。また、世界的な課題となっている地球温暖化対策も継続して取り組んでいかなければならない問題です。多くの複合施設や賃貸事務所の建設が進む一方で、安全で地球環境に優しい建物作りのための技術が求められているのです。照明のLED化は現在までにも導入されてきましたが、東京スカイツリーの建設に活用された「心柱制振システム」等の最新技術もこれからの施設やビルの建設に大きく寄与することは間違いないでしょう。